書店の未来は「かけ算」にある――三省堂書店・亀井崇雄社長が語る、社員とつくった新本店【本の街を紡ぐ人】

書店の未来は「かけ算」にある――三省堂書店・亀井崇雄社長インタビュー第2回

新本店のコンセプト「ENTRANCE TO THE WORLD(書店は世界への扉)」は、社員の声から生まれた――。システムエンジニアから書店へ転身した亀井崇雄社長が語る、プロジェクトの進め方と、書店の未来を拓く「かけ算」。(『本の街』2026年4月号「本の街を紡ぐ人」三省堂書店社長インタビュー第二回)

店内の書棚の前に立つ亀井崇雄社長
「三省堂書店神田神保町本店」は、いよいよ三月一九日にオープンする。

亀井崇雄社長へのインタビュー二回目では、新しい神保町本店のプロジェクトにどうやって社員を巻き込み、理念や想いを共有してきたのか、そして経営者として書店の未来をどのように捉えているのか、お話を伺った。

プロジェクトは、二〇二二年に一時閉店した時から本格始動した。プロジェクトメンバーの貢献が大きいことは言うまでもない。しかし、今回のプロジェクトは、決して一部のメンバーだけで進められたものではなかった。亀井社長は「社内で色んな部署の人間を集めて、ワークショップを何度もやりました。『書店って何だろうね』という仕事の本質を見直すような問いから始まったんです」と振り返る。

社員から生まれた新本店のコンセプト

プロジェクトメンバーは、北海道や名古屋など各地の店舗や営業所を訪ね、計画を語り、意見を吸い上げた。その中で「めくる塾」や「つながる本棚」といった新しい試みも生まれていった。また、機会があるごとに亀井社長自らも社員に語りかけた。「全社で取り組むプロジェクトだよということで、社長メッセージや朝礼など、随所で意識的にプロジェクトの意義を発信してきました」。

亀井社長やプロジェクトメンバーの想いは他の社員にも伝播し、いつしかみんなのプロジェクトに昇華していく。新店舗のコンセプトとなった「ENTRANCE TO THE WORLD(書店は世界への扉)」は、こうした取り組みの中で、社員の声から生まれたものだった。

「こういったやり取りを通じて、社員みんなが本や書店の本質を考えるようになってくれていると思いたい」という言葉からは、確かな手ごたえが滲み出ていた。

身ぶりを交えて語る亀井崇雄社長
新本店のプロジェクトについて語る亀井崇雄社長

デジタルからアナログの世界への転身

話題は、書店を引き継いだ当時へと遡る。

転機は、まさに突然だった。「それまでは、あんまり親から引き継ぐ話をされていなかったんです。言われなければ、そのままシステムエンジニアをやっていきたいなという思いもありましたが、ある日、実家に帰った時に言われ、決意しました」。

入社した当時、亀井社長は「現場は、こんなに原始的なのか」と驚いたそうだ。「その頃はまだ、本を出せばどんどんどんどん売れていた時代だったので、毎日のように新刊がどっと大量に入荷されていました。新刊はすぐに店頭に置かなきゃいけないんですが、売り場に空きスペースがあるわけではないので、何を抜いてどれを置くか、毎日毎日考えていました」と、当時の記憶を辿るように語り始めた。

書店はゆっくり時間が流れるものだと思っていた予想は大きく外れ、実際には時間に、物量に、そして人に追われる日々だった。「システムエンジニアは、自分でスケジュールしながら、コツコツと課されたタスクをやっていくんですが、書店に入ったら、二重三重どころか十ぐらいのタスクをずっと抱えながらやっているみたいな。もう完全に仕事のやり方から何からガラッと違ったんで、カルチャーショックの連続でした」。書店という現場の姿は、想像とは大きく異なっていた。

経営者となってからのテーマは

やがて社長となり、視点はさらに変化していく。「経営者になってからは、このままでは縮小均衡となる一方なので、どうやって収支バランスを取るか、そればっかり考えていましたね。本と+αの何をかけ合わせて新しいかけ算を作っていくか。それが私に与えられたミッションでした」。

だが、現実は決して単純ではない。「かけ合わせは無限大。ただ、あまりにも選択肢が多すぎて、起死回生につながるかけ合わせを見つけるのが難しい。単純に足し算でそれがプラスになるかっていうと、そうでもなかったり。いかようにでもパートナーは見つけられるんですけれども、実を結ばないものもいっぱいありました」。

それでも試行錯誤は続く。「ずっと暗中模索ですね。少しでも成功の種というか、そういったものを見つけては、その店舗の中に散りばめつつ、それがどういう芽を結ぶかっていうのは、ちょっとやってみないとわからないというものだらけですよね」。

神保町一丁目一番地で、その挑戦は今も続いている。(つづく)

亀井崇雄(かめい・たかお)
三省堂書店 代表取締役社長。2026年3月19日、神田神保町本店をリニューアルオープンした。

インタビュー・文=水城凛(みずき・りん)
『本の街』編集部。連載「本の街を紡ぐ人」を担当。

三省堂書店・亀井崇雄社長インタビュー(全3回)
第1回 書店は世界への扉――神保町の真ん中で、書店を「続ける」ということ
第2回 書店の未来は「かけ算」にある
第3回 「書店は街の入り口」――神保町の書店で日本文化を守る


この記事は、神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』2026年4月号(Vol.12)に掲載されたものです。ほかの記事もあわせて、PDFで全文をお読みいただけます。

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この記事を書いた人

神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』編集部。1980年創刊。毎月10日発行、加盟店を中心に60か所以上で無料配布しています。

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