古書目録は「タテではなくヨコに読む」――学習院の名誉教授が神田で貫いた流儀【古書街に集った愛書家たち 第2回】

古書目録は「タテではなくヨコに読む」――学習院の名誉教授が神田で貫いた流儀

「私は目録をタテではなくヨコに読む」。著者名と発行年だけに視線を走らせ、競争相手より先に注文する——学習院女子大学名誉教授・高橋新太郎さんの古書目録の読み方と、古本が堆く積まれた研究室の話です。(『本の街』2026年6月号「古書街に集った愛書家たち」第二回)

高橋新太郎氏
高橋新太郎氏(1932〜2003)

「愛書会」「趣味展」「ぐろりや会」

東京古書会館で金曜日、土曜日に開催される古書展の出品グループは、ざっとこんなラインアップだ。「愛書会」、「趣味展」、「書窓展」、「和洋会」、「ぐろりや会」、「新興会」、「好書会」そして「下町書友会」。筆者が神田の中央大学に通っていた頃は、今は立派なビルになったが、古書会館は畳敷きの平屋建てだった。学ランの客はいなかった。その頃、高橋新太郎さんも古書会館に足を運んでいた。「昭和二七年、『苦学生』という言葉がまだ生きていた時代のことになるが、神田の然る大学図書館の夜間アルバイトとして勤務する頃から、駿河台下の平屋建ての旧古書会館に足繁く通うようになり、開場時間前の内庭に並べられた平台での文献漁りに余念がない、いわゆる愛書家や雑本好きの研究仲間に加わった」(「古本大学の大先輩」『安曇野 松本克平追悼文集』・一九九八年刊)。

「私は目録をタテではなくヨコに読む」

この高橋さんと久しぶりに雑談を交したのは、神田錦町の学士会館で催された、上木敏郎さんが主宰する「土田杏村を語る会」の時だった。彼は古書爆買いと言われるほど尋常一様ではない。まず古書展に出向く。帰り道に神田界隈の古書店をのぞく。帰宅したら、古書肆から送られて来た古書目録を速覧して電話をかける。競争相手に後れを取ってはならぬのである。

「私は目録をタテではなくヨコに読む」。目録は書名・著者名・発行年・価格の順に記載されるのが通常だが、その著者と発行年の部分だけに焦点を据え、視線を横に走らせるのである(「古書目録を読む─あるいは注文の仕方」『彷書月刊』・一九九二・三)といった神業で一度、注文するのだ。

彼の大学の研究室を訪れたことがあった。研究室のドアーを開けると、曲りなりにもデスクと椅子はあるのだが、その周辺は古本が堆くあり、研究室とは言い難い、書庫でもない、古本仕入れの倉庫と化していた。とはいえ、沼袋の家に呼ばれて、奥様の手料理をご馳走になったが、通された一二畳ほどの座敷には、本は一冊も置いてなかった。

没後10年に刊行された「高橋セレクション」

『近代日本文学の周圏』
『近代日本文学の周圏』(笠間書院)

高橋さんは、文学者の戦争責任を考える過程で三好十郎の研究をしたが、一九九一年一〇月から「雑誌探索ノート」を『日本古書通信』に、一九九三年六月から「集書日誌」を『彷書月刊』に連載している。しかも、乃木希典、小倉清三郎、高橋鐵の文献にも食指を動かす。古本爆買いの一端を略記すれば、以下の通りだ。「神戸のロードス書房から『日本古書通信』の戦時改題誌『読書と文献』、沼津の古典社発行の『古書月報』を得た」。「尾張旭市の永楽屋から三好十郎関係の公演プログラムや映画化作品の劇場プログラムが手に入った」と探書は全国津々浦々に及ぶ。

その高橋さんを追悼した樽見博さんは、彼の汗牛充棟ただならぬ蔵書が「必要とする人々の手の中で再生の時がくることを、氏の為にも蔵書の為にも切に祈りたい」(「蔵書家の死と再生」『古本ずき』私家版・二〇〇四年刊)と言い添えている。

「膨大な古書を媒介に、書物や雑誌そのものに『近代日本文学』の虚実を語らせる」とした「高橋セレクション」──『近代日本文学の周圏』、『雑誌探索ノート戦中・戦後誌からの検証』、『集書日誌・詩誌「リアン」のこと』の三冊が没後一〇年の二〇一四年に笠間書院から刊行された。また、高橋さんを追悼した『杜と櫻並木の蔭で──学習院での歳月』(笠間書院)が二〇〇四年に刊行されている。そこに誄辞を寄せた。教え子の秋篠宮文仁殿下の追悼文も掲載されている。

(茅原健・ノンフィクション作家/『本の街』2026年6月号「古書街に集った愛書家たち」第二回)

高橋新太郎(1932〜2003)学習院大学文学部国文学科卒。学習院女子大学名誉教授。『現代日本文学大年表』(明治書院・1968〜1971刊)の編集など。彼の蔵書は新宿区の学習院女子大学と広島県の尾道大学に寄贈された。

▶第一回はこちら:「博捜の福田」と呼ばれた男――福田久賀男伝説

茅原健(かやはら・けん)
ノンフィクション作家。近代日本の出版・思想史を主題に執筆。『本の街』で「古書街に集った愛書家たち」を連載中。


この記事は、神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』2026年6月号(Vol.14)に掲載されたものです。ほかの記事もあわせて、PDFで全文をお読みいただけます。

▶【バックナンバー】『本の街』2026年6月号PDFはこちら

『本の街』は1980年創刊。神保町の書店・出版社・喫茶店・ギャラリーとともに、本の街の今を毎月お届けしています。

▶ 連載「古書街に集った愛書家たち」のほかの回は連載一覧から

紙の『本の街』を手に取ってみませんか

『本の街』は毎月10日発行の地域誌です。神田・神保町・御茶ノ水の加盟店を中心に、60か所以上で無料配布しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』編集部。1980年創刊。毎月10日発行、加盟店を中心に60か所以上で無料配布しています。

目次