ボーナス三分の二で買った三島由紀夫の肉筆――神保町・小宮山書店のガラスケースの前で【本の街に生きる】

ボーナス三分の二で買った三島由紀夫の肉筆――神保町・小宮山書店のガラスケースの前で

神保町・小宮山書店の階段のガラスケースに、少女時代から崇めていた作家の肉筆があった。価格は二十七万円ほど、夏のボーナス三分の二——編集者・渡辺友絵さんが綴る、三島由紀夫の原稿との出会いと、神保町という街との長い付き合いです。(『本の街』2026年6月号寄稿)

渡辺さんが神保町に初めて足を踏み入れたのは中学生の時。新聞社勤務の父に連れられての訪問でした。本格的に街に通い始めたのは結婚を機に麹町に住んだ三〇代から。子どもを連れて区立図書館へ、ついでに古書店をのぞいて文庫を買い、ファーストフード店で一休みする――そんな時間が楽しみだったと言います。

小宮山書店のガラスケース
小宮山書店のガラスケース

そして、忘れられない場面が訪れます。

新聞社時代、小宮山書店の二階に通じる階段のガラスケース内に、優雅で煌びやかな文体に魅了されて少女時代から崇めていた作家の肉筆を見つけた。当時は、小宮山書店が三島の初版本や原稿、書簡を扱う著名店とは知らず、ただただ感極まったことを鮮やかに記憶している。価格は二十七万円ほどで、私の夏のボーナス三分の二くらいだった。

結局その原稿は買わなかったそうです。再就職後間もない頃で、お金を稼ぐ大変さが身に染みており、長く働き続けられるかどうか自信もなかった。「自分の物にしたい」という欲望を、「何事もいったん立ち止まってから」という本来の性格が制した――。それでも上のフロアには多くの初版本が並び、その後何度も足を運んでは目の保養にさせてもらったと振り返ります。

記事の後半では、三島由紀夫と神保町の縁が語られます。2024年に休館した山の上ホテルでの執筆、一日に百枚を超す原稿を書いていたという編集者との打ち合わせ、ミロンガ・ヌォーバやラドリオといった今も現存するレトロな名店。2024年の「三島由紀夫生誕100年祭」では日本近代文学館で「三島由紀夫展 諏訪コレクション」が開かれ、多くのファンが集まりました。

残念ながら神保町では、三島の貴重な品々を一堂に目にする機会は少ない。願わくば古書店街全体を巻き込んだ形で、肉筆原稿や初版本などを集めたイベントを催せないだろうか。古書店街の存在感をアピールする絶好の機会にもなると思う。

記事全文は、6月号PDFでご覧いただけます。

小宮山書店
東京都千代田区神田神保町 ※番地・営業時間は公開前にご確認ください
三島由紀夫の初版本・肉筆原稿・書簡を扱う著名店。2階へ通じる階段のガラスケースに肉筆資料が並ぶ

渡辺友絵(わたなべ・ともえ)
編集者・ライター。ネット通販専門誌で長く記者を務め、編集長を経てフリーに。著書に『通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム・2008年刊)。


この記事は、神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』2026年6月号(Vol.14)掲載、渡辺友絵さんの寄稿「三島由紀夫『肉筆原稿』との出会い」のご紹介です。

▶【バックナンバー】『本の街』2026年6月号PDFはこちら

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この記事を書いた人

神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』編集部。1980年創刊。毎月10日発行、加盟店を中心に60か所以上で無料配布しています。

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