77歳でバイロイト・デビューを果たしたマレク・ヤノフスキが、87歳の今年、東京・春・音楽祭を引退します。最後に選んだのはシェーンベルクの「グレの歌」。音楽ジャーナリスト・毬沙琳さんが、上野の桜とワーグナーの17年を振り返ります。(『本の街』2026年6月号「音の手帖」File.9)

桜の季節になると上野でワーグナーを聴く――音楽ファンにとって風物詩とも言えるのが、東京・春・音楽祭のワーグナー・シリーズです。2010年に始まり今年で17回目。途中、震災とコロナ禍で三回の公演中止はあったものの、《さまよえるオランダ人》以降の十作品を全て演奏会形式で上演してきました。世界的な指揮者・歌手がワールドクラスの演奏を聴かせてきたこのシリーズが、日本のワーグナー受容に果たした役割は大きい、と記事は書きます。
77歳でバイロイト・デビューした指揮者
登場した指揮者の中でも注目を集めたのが、マレク・ヤノフスキでした。《ニーベルングの指環》全四作《ラインの黄金》《ワルキューレ》《ジークフリート》《神々の黄昏》を2014年〜17年に指揮。同時期(16年、17年)にはワーグナーの総本山バイロイト音楽祭でもリングを振ることになり、名門オーケストラや歌劇場で名を馳せた名匠が、77歳にしてバイロイト・デビューを飾ったのです。
そして、著者が2017年のバイロイトで立ち会った場面が語られます。
私は一七年のバイロイトでヤノフスキのリングを見る予定はなかったが、《パルジファル》の指揮者が急病でその日だけ、ヤノフスキが指揮することになった。
リングの三チクルス上演の初回を二日前に終えたばかりで、リハーサル無し。リング四作品は演奏時間を合わせると16時間近く、《パルジファル》も四時間を超える大作です。「歌手はともかく、指揮者がかけもちで振るなど想像もしなかった」と著者は記します。
それでもこの日の演奏は――
この日も全体的には快速テンポで歌手との連携も見事、第三幕の”聖金曜日の奇跡”ではこの世にいるとは思えない美しい響きにうっとりした。カーテンコールでようやく姿をみせたマエストロが一番熱い拍手を受けていたのも印象的だった。

最後に選んだのは『グレの歌』
そのヤノフスキが、今年で東京・春・音楽祭を引退します。最後に選んだのはシェーンベルクの「グレの歌」。150人規模に拡大されたオーケストラと歌手、合唱による超大作でした。濃密な管弦楽と、オペラのように感情を吐露する歌、明晰な合唱の響き。東京文化会館の大きな空間を豊穣な音で満たし、87歳のマエストロは有終の美を飾りました。

なお、その東京文化会館は改修工事のため5月から約3年の休館に入り、東京・春・音楽祭は都内数カ所のホールと上野の美術館・博物館などで開催されるとのことです。
記事全文は、6月号PDFでご覧いただけます。
毬沙琳(まる・しゃりん)
音楽ジャーナリスト。オペラ・クラシック音楽を中心に取材。『本の街』で「音の手帖」を連載中。
この記事は、神田・御茶ノ水・神保町の地域交流サロン誌『本の街』2026年6月号(Vol.14)掲載、毬沙琳さん(音楽ジャーナリスト)の連載「音の手帖」File.9のご紹介です。
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